立命館大学 石水毅研究室

石水研通信

【研究成果】フラボノイド配糖体アピインを生合成するアピオース転移酵素遺伝子を初めて同定

Yamashita, M., Fujimori, T., An, S., Iguchi, S., Takenaka, Y., Kajiura, H., Yoshizawa, T., Matsumura, H., Kobayashi, M., Ono, E., Ishimizu, T. The apiosyltransferase celery UGT94AX1 catalyzes the biosynthesis of the flavone glycoside apiin. Plant Physiol. (2023)

 動けない植物は環境適応性を高める仕組みを持っています。その一つは特化代謝産物(二次代謝産物) を生産することです。特化代謝産物は多様で数十万種類あります。例えば、アントシアニンは花色をつけ、花粉媒介昆虫を引き寄せ、レスベラトロールは病原菌などの外敵に対抗しています。特化代謝産物はヒトにも作用します。コーヒーやお茶に含まれるカフェインは有名です。ケルセチンやカテキンが脂肪代謝を活性化させるので、それらを配合しているサントリー特茶、花王ヘルシアなどの商品がヒットしています。イチイの樹皮から採られるパクリタキセルはがん化学療法に用いられています。

 セロリやパセリはアピインというフラボノイド配糖体(ポリフェノールの一種)を生産します。アピオースという変わった糖が含まれています。古代ヨーロッパではセロリやパセリは神経疾患や不安を和らげるものとして用いられ、現代でもハーブの一種とされています。カモミールもアピインを生産します。このため、アピインに抗不安作用があると考えられ始めています。 

 アピインの機能がよくわかっていないのは、生合成酵素遺伝子が不明であるという背景もあります。石水研ではアピインに含まれるアピオースという特殊な糖の機能にも興味を持っています。そこでアピオースを結合させてアピインを作るアピオース転移酵素のに焦点を当て、2013年に研究を開始しました。この酵素の基質化合物UDP-アピオースが不安定すぎて調製が困難でしたが、2019年になってUDP-アピオースの調製法を開発した論文を発表しました(Fujimori et al. 2019)。このようにして調製したUDP-アピオースを用いて、セロリのRNA-Seq解析を行い、生化学的にアピイン生合成アピオース転移酵素の遺伝子の同定に至りました。

  アピインは1843年にセロリから発見された化合物です。アピオースを結合させる酵素活性が検出されたのが1972年。アピインの発見から180年、アピオース転移酵素の存在が示されてから51年の時を経て、アピイン生合成アピオース転移酵素遺伝子の同定に至り、レベルの高い植物科学の学術誌Plant Physiologyに掲載されました。困難だった研究が達成されたことを受けて、Plant Physiology誌のNews&Viewsのコーナーに解説記事をデンマークの研究者が書いてくれました。アメリカ科学振興協会AAASの広報サイトにも紹介されました。それが転載されてギリシャ語の記事にもなっています。立命館大学の研究広報サイトshiRUtoにも解説記事が掲載されています。

 石水に大学院生として在籍した(している)山下さん・藤森さんが中心となって得られた成果です。京都大学の小林優先生、サントリーの小埜栄一郎先生、立命館大学の松村浩由先生・吉澤拓也先生に協力いただき、成果に至りました。たいへんお世話になり、ありがとうございました。この成果は、アピインを生産する研究やアピインの機能を明らかにする研究に繋がり、これらの研究を現在精力的に進めています。

摂南大学との研究交流会

7月26日、摂南大学の大橋先生と大橋研の学生3名が石水研に来てくれました。大橋研とは共同研究課題もあります。共同で特許を出願したところです。研究交流会と懇親会で交流を深めれました。お互いに知らない情報があったり、求めてた情報が得られたり、有益な交流になったと思います。摂南の3名の学生はいずれも大きな成果になる研究課題に取り組んでいて、成果が楽しみです。

IMG_1408.jpgおみやげで持ってきてくれた551アイスキャンディー。ありがとうございました(石水研学生の喜び方が現金すぎた)。

【研究成果】低光強度ストレスによるトマト根の伸長抑制はランタンを施肥することで緩和される

Iguchi, S., Tokunaga, T., Kamon, E., Takenaka, Y., Koshimizu, S., Watanabe, M., Ishimizu, T. Lanthanum supplementation alleviates tomato root growth suppression under low light stress. Plants 12, 2663 (2023)

 「低光強度ストレスによるトマト根の伸長抑制はランタンを施肥することで緩和される」こんな論文を出しました。ランタンなど希土類元素が植物の成長に良い影響がある、という不思議な現象が知られています。希土類元素は周期表の第3族にあって、工業的に重要で、蓄電池、発光ダイオード、磁石などの材料になっているものです。中国では1980年代頃から希土類元素を含む肥料が好んで使用されています。しかし、希土類元素が植物には効かないという論文もあり、なぜ希土類元素が植物の成長に良いのか、どのような条件なら希土類元素が植物に良い影響があるのか、まだわかっていませんでした。

 今回、光が足りずに植物の成長が遅くなる時に希土類元素があると、成長が促進されて、光が十分にある時のように植物が成長する、ということを発見しました。希土類元素を添加すると植物ホルモンのオーキシンに関連する複数の遺伝子の発現量が大幅に上昇して、オーキシンの作用による成長促進が起こることがわかりました。希土類元素が植物の生育になぜ良いか、明確になっていないことが多かったのですが、この研究により、この点の理解が進みました。作物の肥料として希土類元素が使われていたのは、気象条件が悪いところを補うから、と解釈することができます。光条件以外のストレスでも希土類元素がストレスを緩和させることがあるのか、興味が持たれます。今回の成果は作物の生育の場面でも役に立てられると思います。 

 当研究室に大学院生として在籍していた徳永さん・井口さんが真面目にコツコツ実験を重ねた成果です。徳永さんがこの実験を始めた時、知識がなくて、トマトを生育させる(強い光が必要)のに、シロイヌナズナの植物育成室(光が弱い)で育ててしまったのですが、トマトにとって光が弱い条件の時のみ希土類元素が成長に効く、とわかってきました。徳永さんが優秀すぎて実験条件を適切にしていたら、この成果は得られませんでした(徳永さんをディスっているわけではありません!)。こんなこともあるんですね。井口さんが大量の実験をこなして、遺伝子発現解析も行なって、論文として成果発表できました。

 石水研は酵素研究が得意ですが、今回の研究は植物栄養学・植物生理学・生物情報学の分野で、それほど得意な分野ではありませんでした。東北大学の渡辺正夫先生、国立遺伝学研究所の越水静先生が、さまざまなところで的確な解析・アドバイスをしてくださって、成果に至りました。たいへんお世話になり、ありがとうございました。

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岐阜大学鈴木先生

本日7月12日、岐阜大学の鈴木史朗先生と大学院生の鈴木さんが研究室を訪問されました。植物細胞壁多糖生合成糖転移酵素の研究を共に行っています。岐阜大学から立命館大学まで車で2時間。割とご近所さんなんです。鈴木先生は化学にも分子生物学にも強くて(こういう人、なかなかいない)、以前からすごい人だなあと思っています。有用な情報交換の場になったと思います。鈴木先生、どうもありがとうございました!写真を撮るのを忘れてしまったので、最近の研究材料のセロリの写真(山下さん撮影)を載せておきます。

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国際交流

 最近の石水研は国際交流が盛んです。6月12日にアメリカ・イリノイカレッジ、6月26日に中国・蘇州大学の先生方と南草津近辺で意見交換会をしました。6月27日には、「さくらサイエンス」という事業で、5ヶ国(中国・蘇州大学;インド・インド工科大学;オーストラリア・フリンダース大学・インドネシア・プトラ大学;フランス・アンガース大学)の学生を学部に迎え、そのうちの何名かが石水研を訪問しました。各大学での選考で選ばれてやってきたとのこと、みなさん優秀な学生さんでした。7月11日にはインド・ニッテ大学の学部生10名が石水研を訪問しました。学部生ながら質問が多くて、講義・研究室案内のやりがいがありました。優秀な人ばかりで、このうちの何人かは、こちらの研究科に大学院生として入学して、再会できないかなあと期待しているところです。(上写真さくらサイエンス;下写真ニッテ大学訪問)20230711215913.jpgIMG_1377.jpg