立命館大学 石水毅研究室

研究紹介

1.植物細胞壁多糖生合成の分子機構

植物細胞壁多糖とその生合成

植物細胞壁は、植物細胞を守り、細胞や組織を支える働きをしています。主に多糖から構成されていて、地球上で最も多く存在する生物資源で、エネルギー源としても注目されています。細胞壁多糖のうち、ペクチンは植物成長や細胞接着に関わるとされています。植物の成長時に合成されるので、ペクチン合成の仕組みが明らかになることは、植物の成長について理解することにもなります。そのため、細胞壁研究は、食糧生産の観点からも注目されている研究分野です。 ペクチンは、ジャムやゲル化剤として広く食品産業に利用されています。フルーチェ(ハウス食品)がプルプルと美味しくできるのも、コバラサポート(大正製薬)が胃の中で膨らむのもペクチンのおかげです。漢方薬の薬効成分がペクチンであることも明らかになってきています。このように、植物にとっても人にとっても、ペクチンはなくてはならない物質です。
植物細胞壁多糖は非常に強固で複雑な構造をしています。ペクチンの構造は約30年前に判明しました。この世の中で知られている糖類の中で最も複雑な構造をしています。大事な化合物であるのに、構造が複雑すぎて、どのようにペクチンが合成されて、組み上がっていくのか、いまだに明確にわかっていません。石水研では、ペクチンをはじめ、細胞壁多糖がどのように合成されるか、その仕組みを明らかにする研究に取り組んでいます。 細胞壁多糖がどのように合成されるか、その分子機構がわかると、成長しやすい植物(食糧・エネルギー増収に貢献)を作成したり、分解しやすい多糖をもつ植物(バイオエネルギーにしやすい植物)を作成したり、新しい食材(新規機能化ゲル化剤など)を作り出すことに活かされます。

細胞壁多糖を合成する糖転移酵素

多糖は、一つ一つ糖をつなげていくことで合成されます。この反応を触媒するのが糖転移酵素。糖転移酵素は、つなげられる糖とつなげる糖の両方を認識して、反応を触媒します。糖転移酵素の特異性は厳密です。ペクチンは、12種類の糖と約30種類の結合様式から構成されているため、約30種類の糖転移酵素がペクチンの合成に必要であると考えられています。 当研究室では、つなげられる糖とつなげる糖の両方を化学合成等の方法で調製し、多糖生合成酵素の活性測定法を構築しています(Akita et al., 2002; Ishimizu et al., 2005; Ohashi et al., 2006; Uehara et al., 2017; Fujimori et al., 2019)。この方法を用いて、細胞壁成分ペクチンの主鎖の部分を合成する糖転移酵素遺伝子を世界に先駆けて発見しました(Takenaka et al., 2018)(図1)。しかし、まだ多くのペクチン合成に関わる酵素が未発見のままです。一つ一つ発見し、ペクチン合成の全貌を明らかにすることを目指しています。

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図1.植物細胞壁ペクチンの合成に関わる糖転移酵素を発見した

ペクチン合成と植物進化

陸上植物にはペクチンがあり、水生植物にはペクチンがありません。植物が進化の過程で陸上化したのは、ペクチンができ、細胞強度や細胞間の接着が強固になることで、重力に逆らって植物が垂直に立つことができたためと考えられています。石水研で発見したペクチン合成糖転移酵素遺伝子が、陸上植物にはあり、水生植物にはなかった(図2)ことから、植物がこの遺伝子を獲得することで、進化の過程で植物が陸上化したと考えられました(Takenaka et al., 2018)。陸上化した原始植物と考えられる車軸藻やコケ植物を用いて、ペクチンの役割の研究も展開しています。

index_img02.jpg図2.ペクチン合成に関わる糖転移酵素は陸上植物に存在する

多くの酵素が関わる細胞壁多糖生合成

ペクチンをはじめとして、植物細胞壁多糖の構造は複雑であるにも関わらず、種を越えて一定の構造をしています。そのため、多糖合成に関わる複数の酵素が連携した生合成の機構があると考えられています。その一つとして、複数の酵素が複合体を形成しているという考えがあります。当研究室では、これまでに開発した膜タンパク質取扱技術(Yasui et al., 2010; Uegaki et al., 2010; Arakawa et al., 2011)を生かして、膜タンパク質である細胞壁多糖生合成酵素の複合体を解析することにチャレンジしています。

2.植物糖タンパク質糖鎖の機能および生合成・分解の分子機構

糖タンパク質

真核生物のタンパク質の多くは糖鎖修飾を受けた糖タンパク質です。植物でも糖鎖が結合しているタンパク質があります。タンパク質に結合している糖鎖の役割は完全には解明されていません。哺乳動物では幾分研究が進んでいます。糖鎖は、物性的にはタンパク質の安定化、機能的にはタンパク質輸送やシグナル伝達の目印となっていることが多く見られます。現在知られている糖鎖の役割はケースバイケースです。

植物の成長と糖鎖

動物では糖鎖を合成する遺伝子が欠損した場合、何らかの疾病にかかるか、致死になります。一方、植物では、糖鎖を合成する酵素遺伝子を欠損させても通常の生育環境下ではあまり目立った変化がなく、植物の糖鎖の役割の多くが不明なままでした。当研究室では植物の糖鎖修飾に関わる遺伝子を欠損させた変異体を集め、その生育を観察することで、根の成長が抑制される様々な変異体を見つけました(Kang et al., 2008; Kajiura et al., 2010)(図3)。「なぜ糖鎖が合成されなくなると植物の根が成長しなくなるのか?」。この問いを解決するために、様々な視点から研究を進めています。根の成長に関わる糖鎖の役割を見つけることができれば、より元気で大きな植物を作出でき、食糧問題の解決に貢献できます。

index_img03.jpg図3.糖鎖が合成できず根の成長が抑制された植物(右側の3つ)

特徴的な植物の糖タンパク質糖鎖

植物の糖タンパク質糖鎖は、哺乳動物のものとは違い、特徴的な構造をしています。ハイマンノース型糖鎖はマンノース5残基が結合している構造のものが多く存在します。フコース残基やキシロース残基が含まれる植物コンプレックス型糖鎖と呼ばれるものも多く存在します。当研究室では、ジアセチルキトビオース構造が、植物糖鎖に特徴的にあることを発見しています(Ishimizu et al., 1996; Ishimizu et al., 1999)。

植物糖タンパク質糖鎖の分解の分子メカニズム

植物に特徴的な糖鎖の生成過程を研究することで、植物特異的糖糖質分解酵素を見つけました(Ishimizu et al., 2004; Kato et al., 2018)。この糖質分解酵素の性質を明らかにすることで、植物特有の糖鎖分解経路があることを見つけました(図4)(Ishimizu and Hase, 2006; Kato et al., 2018)。明らかになってきた分解経路を眺めると、まだ未同定の分解酵素があることがわかります。当研究室(糖研究室)では、未同定の分解酵素を見つける研究を進めています。いくつか酵素が同定されると、植物糖鎖の機能研究や、それらがどのように協同的に糖鎖分解を行っているのかというシステムを対象とした研究を進めることができるようになります。

index_img04.jpg図4.石水研で明らかにした植物糖タンパク質糖鎖の分解経路(Kato et al., 2018)

3.新規酵素の発見

石水研の得意分野は酵素研究です。糖鎖に作用する酵素は糖質関連酵素(Carbohydrate-Active Enzymes; CAZymes)と呼ばれています。植物細胞壁多糖の生合成、糖タンパク質糖鎖の機能解析を通じて、糖鎖に作用する未だ見出されていないCAZymesを発見しています。ペクチン合成する酵素は、まだ不明なものが数多く残されており、それらの酵素を発見する研究を続けています。
酵素は基質特異性によりEC番号に分類され、これまで に7,727種類(2019年4月現在)の酵素が登録されています。このうち、石水研で2種類の酵素を発見しています。

糖質関連酵素はアミノ酸配列によっても分類され、CAZyデータベースでファミリー分けされています。糖質加水分解酵素(GH)は156ファミリー、糖転移酵素(GT)は106ファミリーに分けられています。このうち、石水研でGT106ファミリーを発見しています。