【研究成果】フラボノイド配糖体アピインを生合成するアピオース転移酵素遺伝子を初めて同定
動けない植物は環境適応性を高める仕組みを持っています。その一つは特化代謝産物(二次代謝産物) を生産することです。特化代謝産物は多様で数十万種類あります。例えば、アントシアニンは花色をつけ、花粉媒介昆虫を引き寄せ、レスベラトロールは病原菌などの外敵に対抗しています。特化代謝産物はヒトにも作用します。コーヒーやお茶に含まれるカフェインは有名です。ケルセチンやカテキンが脂肪代謝を活性化させるので、それらを配合しているサントリー特茶、花王ヘルシアなどの商品がヒットしています。イチイの樹皮から採られるパクリタキセルはがん化学療法に用いられています。
セロリやパセリはアピインというフラボノイド配糖体(ポリフェノールの一種)を生産します。アピオースという変わった糖が含まれています。古代ヨーロッパではセロリやパセリは神経疾患や不安を和らげるものとして用いられ、現代でもハーブの一種とされています。カモミールもアピインを生産します。このため、アピインに抗不安作用があると考えられ始めています。
アピインの機能がよくわかっていないのは、生合成酵素遺伝子が不明であるという背景もあります。石水研ではアピインに含まれるアピオースという特殊な糖の機能にも興味を持っています。そこでアピオースを結合させてアピインを作るアピオース転移酵素のに焦点を当て、2013年に研究を開始しました。この酵素の基質化合物UDP-アピオースが不安定すぎて調製が困難でしたが、2019年になってUDP-アピオースの調製法を開発した論文を発表しました(Fujimori et al. 2019)。このようにして調製したUDP-アピオースを用いて、セロリのRNA-Seq解析を行い、生化学的にアピイン生合成アピオース転移酵素の遺伝子の同定に至りました。
アピインは1843年にセロリから発見された化合物です。アピオースを結合させる酵素活性が検出されたのが1972年。アピインの発見から180年、アピオース転移酵素の存在が示されてから51年の時を経て、アピイン生合成アピオース転移酵素遺伝子の同定に至り、レベルの高い植物科学の学術誌Plant Physiologyに掲載されました。困難だった研究が達成されたことを受けて、Plant Physiology誌のNews&Viewsのコーナーに解説記事をデンマークの研究者が書いてくれました。アメリカ科学振興協会AAASの広報サイトにも紹介されました。それが転載されてギリシャ語の記事にもなっています。立命館大学の研究広報サイトshiRUtoにも解説記事が掲載されています。
石水に大学院生として在籍した(している)山下さん・藤森さんが中心となって得られた成果です。京都大学の小林優先生、サントリーの小埜栄一郎先生、立命館大学の松村浩由先生・吉澤拓也先生に協力いただき、成果に至りました。たいへんお世話になり、ありがとうございました。この成果は、アピインを生産する研究やアピインの機能を明らかにする研究に繋がり、これらの研究を現在精力的に進めています。