【研究成果】低光強度ストレスによるトマト根の伸長抑制はランタンを施肥することで緩和される
「低光強度ストレスによるトマト根の伸長抑制はランタンを施肥することで緩和される」こんな論文を出しました。ランタンなど希土類元素が植物の成長に良い影響がある、という不思議な現象が知られています。希土類元素は周期表の第3族にあって、工業的に重要で、蓄電池、発光ダイオード、磁石などの材料になっているものです。中国では1980年代頃から希土類元素を含む肥料が好んで使用されています。しかし、希土類元素が植物には効かないという論文もあり、なぜ希土類元素が植物の成長に良いのか、どのような条件なら希土類元素が植物に良い影響があるのか、まだわかっていませんでした。
今回、光が足りずに植物の成長が遅くなる時に希土類元素があると、成長が促進されて、光が十分にある時のように植物が成長する、ということを発見しました。希土類元素を添加すると植物ホルモンのオーキシンに関連する複数の遺伝子の発現量が大幅に上昇して、オーキシンの作用による成長促進が起こることがわかりました。希土類元素が植物の生育になぜ良いか、明確になっていないことが多かったのですが、この研究により、この点の理解が進みました。作物の肥料として希土類元素が使われていたのは、気象条件が悪いところを補うから、と解釈することができます。光条件以外のストレスでも希土類元素がストレスを緩和させることがあるのか、興味が持たれます。今回の成果は作物の生育の場面でも役に立てられると思います。
当研究室に大学院生として在籍していた徳永さん・井口さんが真面目にコツコツ実験を重ねた成果です。徳永さんがこの実験を始めた時、知識がなくて、トマトを生育させる(強い光が必要)のに、シロイヌナズナの植物育成室(光が弱い)で育ててしまったのですが、トマトにとって光が弱い条件の時のみ希土類元素が成長に効く、とわかってきました。徳永さんが優秀すぎて実験条件を適切にしていたら、この成果は得られませんでした(徳永さんをディスっているわけではありません!)。こんなこともあるんですね。井口さんが大量の実験をこなして、遺伝子発現解析も行なって、論文として成果発表できました。
石水研は酵素研究が得意ですが、今回の研究は植物栄養学・植物生理学・生物情報学の分野で、それほど得意な分野ではありませんでした。東北大学の渡辺正夫先生、国立遺伝学研究所の越水静先生が、さまざまなところで的確な解析・アドバイスをしてくださって、成果に至りました。たいへんお世話になり、ありがとうございました。