立命館大学 石水毅研究室

石水研通信

「愛なき世界」三浦しをん

 「愛なき世界」(三浦しをん)という小説。シロイヌナズナの葉の形態形成の研究をしている女子大学院生本村さんと研究室近くの定食屋さんで料理人を目指す純粋な藤丸くんの周りをめぐる日常が描かれています。

 シロイヌナズナ変異体の作成や遺伝子の解析をしている場面が詳細に描かれていますが、その記述が正確で驚きます。植物科学研究に興味を持っている人には勉強になると思います。三浦しをんさんの取材力と勉強量、文章力によって、わかりやすく書いてくれていて、研究の苦労もうまく描写されていて、植物研究者が読むと共感できるところが多くうれしくなるところがあります。

 研究者も人間らしい心の動きは当然持っていて、恋愛もするし、趣味も持っている。そんな中で自然の秘密を解き明かしたい理学研究をする時の心情描写がうまく描かれている。読んでいて泣きそうになる場面もいくつかありました。本村さんと藤丸くんとのやりとりは絶妙で、いろんなことを思うポイントでした。逆説的なタイトルのつけ方も絶妙。ネタバレしないように詳細は省きます。

 続きが読みたくなっています。大学院生が成果を出していくことで、素敵な人になっていく場面を何度も見ています。研究は人格形成にプラスに働きます。研究は、思い込みをなくして、事実を真正面から受ける能力をつけていく訓練をするものでもあり、その能力は人に対応する場面でも必要な共通なものだからと思います。三浦しをんさん、続編書いてくれないかな。本村さんの成長過程を見てみたい。

 東京大学の塚谷裕一先生の研究室がモデルだとか。本郷の東大理学部の周りの地理を知っている人はより楽しめると思います。石水。

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